HOW TOノイズフィルター(EMCフィルター)の基礎:コモンモードとノーマルモード
ラジオに「ザーッ」という雑音が入ったり、機械が原因不明の誤動作を起こしたり。その原因が、電源線を伝わってくる「ノイズ」であることは少なくありません。
そのノイズを電源の入口で止めるのが「ノイズフィルター(EMCフィルター)」です。この記事では、ノイズの種類、フィルターの中身、効き目を表すグラフの読み方、そして選び方を、図を使ってやさしく説明します。
3行でわかる!この記事のポイント
- ノイズフィルターは、電源線を通るノイズを止める部品
- ノイズにはノーマルモードとコモンモードの2種類がある
- 選ぶときは電流・漏れ電流・減衰特性・段数・形を見る
ノイズフィルターってなに?
コンセントから来る電気は、本来はなめらかな波の形をしています。
ところが、モーターやスイッチング電源などの機器は、動くときに細かいギザギザの電気、つまり「ノイズ」を出します。このノイズが電源線を伝わると、ほかの機器の誤動作や、ラジオ・通信の雑音の原因になります。
ノイズフィルターは、電気そのものは通しながら、ノイズだけを止める部品です。外から入ってくるノイズも、機器から外へ出ていくノイズも、両方を抑えます。
用語メモ
- EMC
- 電磁両立性。機器がノイズを出しすぎないこと、そしてノイズを受けても誤動作しないことの両方を表す言葉です。
- 伝導ノイズ/放射ノイズ
- 電線を伝わるノイズが伝導ノイズ、電波として空間に飛ぶノイズが放射ノイズ。ノイズフィルターが主に止めるのは伝導ノイズです。
ノイズには2つの種類がある
電源線を伝わるノイズは、流れ方によって2つに分けられます。フィルターを選ぶうえで、とても大事な考え方です。
ひとつは、L と N の2本の線の間を行って帰ってくる「ノーマルモードノイズ」。ふつうの電気と同じ道を通ります。
もうひとつは、L と N の両方を同じ向きに流れ、アース(大地や機器のケース)を通って戻ってくる「コモンモードノイズ」です。機器と大地の間のわずかなすき間を通って戻るため、対策がむずかしいノイズです。
用語メモ
- ノーマルモード(ディファレンシャルモード)
- 線と線の間を往復するノイズ。「差動モード」とも呼ばれます。
- コモンモード
- 複数の線を同じ向きに流れ、アースを通って戻るノイズ。「同相モード」とも呼ばれます。
- L/N
- 電源の2本の線。L はライン(電圧がかかる側)、N はニュートラル(中性線)です。
フィルターの中に入っているもの
ノイズフィルターの中身は、意外とシンプルです。コイルとコンデンサーという2種類の部品を組み合わせて作られています。
コイルは「速い変化を通しにくい」、コンデンサーは「速い変化を通しやすい」性質を持っています。この性質を使って、ノイズだけを止めたり、逃がしたりしているのです。
Xコンデンサー
L と N の間に入れるコンデンサー。ノーマルモードノイズを、反対側の線へ逃がして打ち消します。
コモンモードチョーク
L と N を同じ芯に巻いたコイル。ふつうの電気は通し、コモンモードノイズだけを通しにくくします。
Yコンデンサー
L・N とアースの間に入れるコンデンサー。コモンモードノイズを、アースへ逃がします。
このほか、電源を抜いたあとにコンデンサーにたまった電気を逃がす「放電抵抗」が入っていることもあります。
用語メモ
- コイル(インダクター)
- 電線を巻いた部品。電流の急な変化をじゃまする性質があります。
- コンデンサー(キャパシター)
- 電気をためる部品。ゆっくりした変化は通さず、速い変化は通す性質があります。
- X/Y コンデンサー
- 安全規格で決められた、電源ライン用のコンデンサーの種類。壊れても感電や火災につながりにくいように作られています。
効き目は「減衰特性」のグラフで見る
フィルターがどれくらいノイズを止められるかは、データシートの「減衰特性」というグラフで確認します。
横軸はノイズの周波数、縦軸はノイズをどれくらい弱められるか(減衰量)です。グラフの線が上にあるほど、その周波数のノイズをよく止めることを表します。
グラフの形はイメージです。実際の値は製品のデータシートで確認してください
縦軸の単位「dB(デシベル)」は、なじみがないと分かりにくいかもしれません。目安は次のとおりです。
ノイズの電圧で比べたときの目安。20dB 増えるごとに、さらに 1/10 になります
用語メモ
- 減衰特性(挿入損失)
- フィルターを入れたことで、ノイズがどれだけ小さくなったかを周波数ごとに表したもの。
- 周波数(Hz:ヘルツ)
- 1秒間に波がくり返す回数。k(キロ)は1,000倍、M(メガ)は100万倍です。
- dB(デシベル)
- 大きさの比を表す単位。数字が大きいほど、ノイズを強く弱めていることを表します。
選び方は5ステップ
ノイズフィルターは、次の5つのステップで選んでいきましょう。
- 1定格電流と電圧
- 2漏れ電流医療機器か?
- 3減衰特性どの周波数か
- 4段数1段か2段か
- 5形取り付け方
STEP 1 定格:電流と電圧
まずは、機器に流れる電流と、電源の電圧に合うものを選びます。
注意したいのは、まわりの温度が高いと、流せる電流が下がることです。データシートには「40℃まで定格どおり、それ以上は少しずつ下げる」といったグラフが載っています。機器の中が熱くなる場合は、余裕のある定格を選びましょう。
用語メモ
- ディレーティング
- 温度などの条件に合わせて、定格より低い値で使うこと。部品を長持ちさせ、安全に使うための考え方です。
STEP 2 漏れ電流:医療機器なら特に注意
次に、漏れ電流を確認します。
Yコンデンサーはノイズをアースへ逃がすため、そのしくみ上、ふつうの電気もごくわずかにアースへ流れます。これが「漏れ電流」です。
一般の機器では問題になりませんが、医療機器では患者さんの安全のため、漏れ電流の上限が厳しく決められています。医療機器には、漏れ電流を小さく抑えた医療用フィルターを選びます。
一般用フィルター
Yコンデンサーを使って、コモンモードノイズをしっかり抑える。一般の電子機器、産業機器などに。
医療用フィルター
Yコンデンサーを小さくしたり、なくしたりして漏れ電流を抑えたタイプ。医療機器に。
用語メモ
- 漏れ電流
- 本来の回路以外を通って、アースなどへわずかにもれる電流。
- IEC 60601-1
- 医療用の電気機器の安全についての国際規格。漏れ電流の上限なども決められています。
STEP 3 減衰特性:どの周波数のノイズを止めたい?
三つ目は、減衰特性のグラフを見て、止めたいノイズに効くかを確認します。
ノイズの測定で問題になった周波数がわかっていれば、その周波数で減衰量が大きいものを選びます。伝導ノイズの規制は、主に 150kHz〜30MHz の範囲で決められているため、この範囲の特性をよく見ておきましょう。
あわせて、コモンモードとノーマルモードの両方のグラフを確認するのがポイントです。どちらのノイズが多いかで、合うフィルターが変わります。
用語メモ
- VCCI/CISPR
- 機器から出るノイズの上限を決めた規格や制度。CISPR は国際規格、VCCI は日本の自主規制の制度です。
STEP 4 段数:1段か、2段か
四つ目は、フィルターの「段数」です。
コイルとコンデンサーの組み合わせを1組入れたものを「1段」、2組重ねたものを「2段」と呼びます。2段のほうがノイズを強く止められますが、そのぶん大きく、価格も上がります。
1段フィルター
小さく、手ごろ。一般的なノイズ対策に。
2段フィルター
より強くノイズを止める。ノイズの多い機器や、規制の厳しい用途に。
STEP 5 形:どこに、どう付ける?
最後に、機器への取り付け方を選びます。
基板に直接載せるもの、機器のケースにねじで固定するもの、そして電源コードを差し込むインレットと一体になったものなどがあります。インレット一体型や、スイッチ・ヒューズまでまとめた「パワーエントリーモジュール」を選ぶと、部品の数を減らせます。
シャーシ取付タイプ
インレット一体タイプ
パワーエントリーモジュール
右に行くほど、ほかの部品とまとまったタイプになります
インレットやパワーエントリーモジュールについては、このシリーズの「IECインレット早わかり」「パワーエントリーモジュール入門」で詳しく説明しています。
やりがちな失敗3つ
ここで、はじめてノイズフィルターを使うときに、やりがちな失敗を紹介します。
入力と出力の配線を近づける
ノイズがフィルターを飛び越えて、出力側へ移ってしまいます。入力と出力の配線は離して。
アースをしっかりとらない
コモンモードノイズの逃げ道がなくなり、効き目が落ちます。ケースへ太く短くつなぐのが基本。
医療機器に一般用を使う
漏れ電流が規格の上限を超えてしまうおそれがあります。医療機器には医療用を。
まとめ:選ぶ前のチェックリスト
ノイズフィルターは、機器をノイズから守り、まわりの機器にも迷惑をかけないための大切な部品です。選ぶ前に、次の5つを確認しておきましょう。
- 機器の電流と電圧は? 中は熱くなる? → 定格とディレーティング
- 医療機器に使う? → 漏れ電流(医療用フィルター)
- 止めたいノイズの周波数は? → 減衰特性のグラフ
- ノイズはどれくらい強い? → 1段か2段か
- どこに付ける? ほかの部品とまとめる? → 形・取り付け方
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