HOW TO医療機器向けの電源部品を選ぶときに知っておきたいこと

2026年10月15日技術コラム

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病院で使われる心電計や輸液ポンプ、家庭で使う在宅医療機器。こうした医療機器の電源まわりの部品は、ふつうの電子機器と同じものを使えばよい、というわけにはいきません。

患者さんは、ほんのわずかな電流でも危険になることがあるからです。この記事では、医療機器ならではの「安全の考え方」と、電源まわりの部品を選ぶときのポイントを、図を使ってやさしく説明します。

3行でわかる!この記事のポイント

  1. 医療機器は、一般の機器より電気の安全の基準がずっと厳しい
  2. カギになるのは「漏れ電流」と「絶縁(MOPP)」
  3. フィルター・ヒューズ・インレット・スイッチを医療向けの考え方で選ぶ

なぜ医療機器は特別なの?

ふつうの人なら気づきもしないような小さな電流でも、患者さんにとっては危険になることがあります。

たとえば、手術中や検査中の患者さんは、体に電極が貼られていたり、意識がなかったりします。体の中にカテーテルが入っていて、心臓のすぐ近くまで電気の通り道ができていることもあります。

体の外から流れる電流は、1mA ほどでようやく「ピリッ」と感じる程度です。ところが、心臓に直接流れると、その10分の1ほどの電流でも命にかかわることがあります。

数値は一般的に知られている目安です

そのため医療機器には、国際規格 IEC 60601-1 で、一般の機器よりずっと厳しい電気の安全の基準が決められています。

用語メモ

IEC 60601-1
医療用の電気機器の安全についての国際規格。日本では JIS T 0601-1 として取り入れられています。
マクロショック/ミクロショック
体の外から流れる電流による感電がマクロショック、心臓に直接流れる電流による感電がミクロショックです。
µA(マイクロアンペア)
1mA の1000分の1の電流。1µA = 0.001mA です。

「どこに触れるか」で3つに分かれる

医療機器の中で、患者さんの体に触れる部分を「装着部」と呼びます。心電計の電極や、血圧計のカフなどです。

装着部は、体のどこに、どのように触れるかによって B形・BF形・CF形の3つに分けられます。心臓に近いほど、基準は厳しくなります。

それぞれの形には、患者さんに流れてよい電流(患者漏れ電流)の上限が決められています。

装着部の形 ふだん 故障が1つあるとき 主な例
B形 100µA 500µA 体に触れる部分(回路は浮かせていない)
BF形 100µA 500µA 電極など、回路を浮かせて体につながる部分
CF形 10µA 50µA 心臓に直接触れる部分

患者漏れ電流(交流)の上限の例(IEC 60601-1 第3版)。細かい条件は規格本文で確認してください

用語メモ

装着部
使うときに、患者さんの体に触れる部分。
F(フローティング)
装着部の回路を、ほかの回路やアースから浮かせて(絶縁して)いること。BF形・CF形の「F」です。
単一故障状態
部品の故障などの「安全のための対策がひとつ壊れた」状態。そのときでも安全であることが求められます。

守りは「2重」が基本:MOOP と MOPP

医療機器では、感電を防ぐための対策(絶縁や保護接地など)を「保護手段」と呼びます。

ひとつが壊れても、もうひとつで守れるように、保護手段を2重にするのが基本の考え方です。さらに、誰を守るかによって2種類に分けられます。

MOOP(操作者を守る)

医師や看護師など、機器を操作する人を守るための保護手段。一般の機器の考え方に近い基準です。

MOPP(患者を守る)

患者さんを守るための保護手段。より高い電圧に耐えること、より長い絶縁距離が求められます。

保護手段 絶縁の試験電圧(交流)
1×MOOP 1500V
2×MOOP 3000V
1×MOPP 1500V
2×MOPP 4000V

電源電圧が 250V 以下の場合の例。2×MOPP では、沿面距離 8mm などの絶縁距離も求められます

電源まわりの部品は、この「2重の守り」の一部になります。そのため、部品そのものの絶縁の性能も重要です。

用語メモ

MOOP/MOPP
Means of Operator Protection(操作者保護手段)/Means of Patient Protection(患者保護手段)の略です。
沿面距離
2つの導体の間を、絶縁物の表面に沿って測った距離。長いほど、電気が表面を伝って流れにくくなります。

電源まわりの部品、選び方は5ステップ

ここからは、医療機器の電源の入口に使う部品を選ぶポイントを、5つのステップで見ていきましょう。

  1. 1フィルター漏れ電流の小さい医療用
  2. 2ヒューズL と N の両方に
  3. 3インレットクラスと抜け防止
  4. 4スイッチ両方の線を切る
  5. 5認証と環境規格・清掃・EMC

STEP 1 フィルター:漏れ電流の小さい医療用を

いちばん大事なのが、ノイズフィルターの選び方です。

一般用のノイズフィルターは、ノイズをアースへ逃がすコンデンサー(Yコンデンサー)のせいで、ごくわずかに電流がアースへもれます。一般の機器では問題になりませんが、医療機器では漏れ電流の上限を超えてしまうおそれがあります。

そこで、漏れ電流を小さく抑えた医療用フィルターを選びます。

一般用数百µA になることも
M8080µA 以下
M55µA 以下

フィルターの漏れ電流のイメージ。M80・M5 は SCHURTER社の医療用フィルターの記号の例です

どのくらい小さくする必要があるかは、機器全体の漏れ電流の計算や、装着部の形によって変わります。

STEP 2 ヒューズ:L と N の両方に

次はヒューズです。

一般の機器では、電源の片方の線(L)だけにヒューズを入れることがよくあります。医療機器では、L と N の両方にヒューズを入れる「2極」の設計がよく使われ、条件によっては規格で求められます。

コンセントの向きによって L と N が入れ替わっても、確実に電気を止められるようにするためです。

1極(片側だけ)

L だけにヒューズ。コンセントの向きが逆だと、N 側に異常が起きたとき止められないことも。

2極(両側)

L と N の両方にヒューズ。どちらの線で異常が起きても止められます。

ヒューズを入れるホルダーも、2極用のものを選びます。パワーエントリーモジュールにも、2極のヒューズホルダー付きの製品があります。

STEP 3 インレット:クラスと抜け防止

三つ目は、電源コードを差し込むインレットです。

アースで守る「クラスI」の機器にはアース付きの C14 など、二重の絶縁で守る「クラスII」の機器にはアースのない C18 などを使います。在宅医療機器では、アースのとれない家庭のコンセントでも安全に使えるクラスIIの設計がよく選ばれます。

また、使っている最中にコードが抜けると、治療が止まってしまいます。SCHURTER社の「V-Lock」のような、コードの抜け防止のしくみがあると安心です。

用語メモ

在宅医療機器
病院ではなく、家庭で使う医療機器。IEC 60601-1-11 という規格で、家庭で使うための追加の基準が決められています。
医用コンセント
日本の病院で使われる、医療機器用のコンセント。抜けにくく、アースが確実にとれるように作られています。

STEP 4 スイッチ:両方の線を切る

四つ目は電源スイッチです。

医療機器では、点検や修理のときなどに電源のすべての線を同時に切り離せることが求められます。そのため、L と N の両方を同時に切る「2極スイッチ」がよく使われます。

スイッチが電源の切り離しの役目を果たすなら、すぐ手が届く、わかりやすい場所に付けることも大切です。

STEP 5 認証と環境:規格・清掃・EMC

最後に、部品の認証と、使われる環境を確認します。

IEC 60601-1 の要求に合わせて作られ、認証を受けた部品を使うと、機器としての規格対応を進めやすくなります。病院では機器を消毒液でふくことも多いので、液体に強い(IP等級の高い)部品が向いている場合もあります。

さらに、医療機器は電磁波の影響を受けても誤動作しないことが特に重要です。ノイズの規格 IEC 60601-1-2 にも対応できるよう、フィルターの性能もあわせて考えます。

IEC 60601-1 対応
IP等級(液体への強さ)
IEC 60601-1-2(EMC)
在宅向けなら IEC 60601-1-11

部品選びで確認したい規格や性能の例

用語メモ

IP等級
ほこりや水がどれだけ入りにくいかを表す等級。IP65 なら、ほこりが入らず、水の噴流にも耐えます。
IEC 60601-1-2
医療機器の EMC(ノイズを出しすぎない・ノイズで誤動作しない)についての規格。

やりがちな失敗3つ

ここで、医療機器の部品選びで、やりがちな失敗を紹介します。

×

一般機器の部品をそのまま使う

フィルターの漏れ電流が大きく、機器全体で上限を超えてしまうことがあります。

×

ヒューズやスイッチが片側だけ

L と N が入れ替わると、異常のときに電気を止められないおそれがあります。

×

部品の認証だけで安心する

規格に合っているかは、最後は機器全体で試験して確かめます。部品選びはその第一歩です。

まとめ:選ぶ前のチェックリスト

医療機器の部品選びは、患者さんの安全を守るための大切な仕事です。選ぶ前に、次の5つを確認しておきましょう。

  • 装着部は B形・BF形・CF形のどれ? → 漏れ電流の上限
  • フィルターの漏れ電流は小さい? → 医療用フィルター
  • ヒューズとスイッチは両方の線に入っている? → 2極
  • クラスI か クラスII か? コードが抜けたら困る? → インレットと抜け防止
  • どこで、どう使われる? → 認証・IP等級・EMC

規格の要求は、機器の種類や規格の版によって細かくちがいます。実際の設計では、最新の規格と認証機関の判断をあわせて確認してください。

部品選びのご相談はアスカ電子へ

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