HOW TOノイズフィルター(EMCフィルター)の基礎:コモンモードとノーマルモード

2026年10月15日技術コラム

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ラジオに「ザーッ」という雑音が入ったり、機械が原因不明の誤動作を起こしたり。その原因が、電源線を伝わってくる「ノイズ」であることは少なくありません。

そのノイズを電源の入口で止めるのが「ノイズフィルター(EMCフィルター)」です。この記事では、ノイズの種類、フィルターの中身、効き目を表すグラフの読み方、そして選び方を、図を使ってやさしく説明します。

3行でわかる!この記事のポイント

  1. ノイズフィルターは、電源線を通るノイズを止める部品
  2. ノイズにはノーマルモードとコモンモードの2種類がある
  3. 選ぶときは電流・漏れ電流・減衰特性・段数・形を見る

ノイズフィルターってなに?

コンセントから来る電気は、本来はなめらかな波の形をしています。

ところが、モーターやスイッチング電源などの機器は、動くときに細かいギザギザの電気、つまり「ノイズ」を出します。このノイズが電源線を伝わると、ほかの機器の誤動作や、ラジオ・通信の雑音の原因になります。

ノイズフィルターは、電気そのものは通しながら、ノイズだけを止める部品です。外から入ってくるノイズも、機器から外へ出ていくノイズも、両方を抑えます。

用語メモ

EMC
電磁両立性。機器がノイズを出しすぎないこと、そしてノイズを受けても誤動作しないことの両方を表す言葉です。
伝導ノイズ/放射ノイズ
電線を伝わるノイズが伝導ノイズ、電波として空間に飛ぶノイズが放射ノイズ。ノイズフィルターが主に止めるのは伝導ノイズです。

ノイズには2つの種類がある

電源線を伝わるノイズは、流れ方によって2つに分けられます。フィルターを選ぶうえで、とても大事な考え方です。

ひとつは、L と N の2本の線の間を行って帰ってくる「ノーマルモードノイズ」。ふつうの電気と同じ道を通ります。

もうひとつは、L と N の両方を同じ向きに流れ、アース(大地や機器のケース)を通って戻ってくる「コモンモードノイズ」です。機器と大地の間のわずかなすき間を通って戻るため、対策がむずかしいノイズです。

用語メモ

ノーマルモード(ディファレンシャルモード)
線と線の間を往復するノイズ。「差動モード」とも呼ばれます。
コモンモード
複数の線を同じ向きに流れ、アースを通って戻るノイズ。「同相モード」とも呼ばれます。
L/N
電源の2本の線。L はライン(電圧がかかる側)、N はニュートラル(中性線)です。

フィルターの中に入っているもの

ノイズフィルターの中身は、意外とシンプルです。コイルとコンデンサーという2種類の部品を組み合わせて作られています。

コイルは「速い変化を通しにくい」、コンデンサーは「速い変化を通しやすい」性質を持っています。この性質を使って、ノイズだけを止めたり、逃がしたりしているのです。

1

Xコンデンサー

L と N の間に入れるコンデンサー。ノーマルモードノイズを、反対側の線へ逃がして打ち消します。

2

コモンモードチョーク

L と N を同じ芯に巻いたコイル。ふつうの電気は通し、コモンモードノイズだけを通しにくくします。

3

Yコンデンサー

L・N とアースの間に入れるコンデンサー。コモンモードノイズを、アースへ逃がします。

このほか、電源を抜いたあとにコンデンサーにたまった電気を逃がす「放電抵抗」が入っていることもあります。

用語メモ

コイル(インダクター)
電線を巻いた部品。電流の急な変化をじゃまする性質があります。
コンデンサー(キャパシター)
電気をためる部品。ゆっくりした変化は通さず、速い変化は通す性質があります。
X/Y コンデンサー
安全規格で決められた、電源ライン用のコンデンサーの種類。壊れても感電や火災につながりにくいように作られています。

効き目は「減衰特性」のグラフで見る

フィルターがどれくらいノイズを止められるかは、データシートの「減衰特性」というグラフで確認します。

横軸はノイズの周波数、縦軸はノイズをどれくらい弱められるか(減衰量)です。グラフの線が上にあるほど、その周波数のノイズをよく止めることを表します。

グラフの形はイメージです。実際の値は製品のデータシートで確認してください

縦軸の単位「dB(デシベル)」は、なじみがないと分かりにくいかもしれません。目安は次のとおりです。

20dBノイズが 1/10 に
40dBノイズが 1/100 に
60dBノイズが 1/1000 に

ノイズの電圧で比べたときの目安。20dB 増えるごとに、さらに 1/10 になります

用語メモ

減衰特性(挿入損失)
フィルターを入れたことで、ノイズがどれだけ小さくなったかを周波数ごとに表したもの。
周波数(Hz:ヘルツ)
1秒間に波がくり返す回数。k(キロ)は1,000倍、M(メガ)は100万倍です。
dB(デシベル)
大きさの比を表す単位。数字が大きいほど、ノイズを強く弱めていることを表します。

選び方は5ステップ

ノイズフィルターは、次の5つのステップで選んでいきましょう。

  1. 1定格電流と電圧
  2. 2漏れ電流医療機器か?
  3. 3減衰特性どの周波数か
  4. 4段数1段か2段か
  5. 5形取り付け方

STEP 1 定格:電流と電圧

まずは、機器に流れる電流と、電源の電圧に合うものを選びます。

注意したいのは、まわりの温度が高いと、流せる電流が下がることです。データシートには「40℃まで定格どおり、それ以上は少しずつ下げる」といったグラフが載っています。機器の中が熱くなる場合は、余裕のある定格を選びましょう。

用語メモ

ディレーティング
温度などの条件に合わせて、定格より低い値で使うこと。部品を長持ちさせ、安全に使うための考え方です。

STEP 2 漏れ電流:医療機器なら特に注意

次に、漏れ電流を確認します。

Yコンデンサーはノイズをアースへ逃がすため、そのしくみ上、ふつうの電気もごくわずかにアースへ流れます。これが「漏れ電流」です。

一般の機器では問題になりませんが、医療機器では患者さんの安全のため、漏れ電流の上限が厳しく決められています。医療機器には、漏れ電流を小さく抑えた医療用フィルターを選びます。

一般用フィルター

Yコンデンサーを使って、コモンモードノイズをしっかり抑える。一般の電子機器、産業機器などに。

医療用フィルター

Yコンデンサーを小さくしたり、なくしたりして漏れ電流を抑えたタイプ。医療機器に。

用語メモ

漏れ電流
本来の回路以外を通って、アースなどへわずかにもれる電流。
IEC 60601-1
医療用の電気機器の安全についての国際規格。漏れ電流の上限なども決められています。

STEP 3 減衰特性:どの周波数のノイズを止めたい?

三つ目は、減衰特性のグラフを見て、止めたいノイズに効くかを確認します。

ノイズの測定で問題になった周波数がわかっていれば、その周波数で減衰量が大きいものを選びます。伝導ノイズの規制は、主に 150kHz〜30MHz の範囲で決められているため、この範囲の特性をよく見ておきましょう。

あわせて、コモンモードとノーマルモードの両方のグラフを確認するのがポイントです。どちらのノイズが多いかで、合うフィルターが変わります。

用語メモ

VCCI/CISPR
機器から出るノイズの上限を決めた規格や制度。CISPR は国際規格、VCCI は日本の自主規制の制度です。

STEP 4 段数:1段か、2段か

四つ目は、フィルターの「段数」です。

コイルとコンデンサーの組み合わせを1組入れたものを「1段」、2組重ねたものを「2段」と呼びます。2段のほうがノイズを強く止められますが、そのぶん大きく、価格も上がります。

1段フィルター

小さく、手ごろ。一般的なノイズ対策に。

2段フィルター

より強くノイズを止める。ノイズの多い機器や、規制の厳しい用途に。

STEP 5 形:どこに、どう付ける?

最後に、機器への取り付け方を選びます。

基板に直接載せるもの、機器のケースにねじで固定するもの、そして電源コードを差し込むインレットと一体になったものなどがあります。インレット一体型や、スイッチ・ヒューズまでまとめた「パワーエントリーモジュール」を選ぶと、部品の数を減らせます。

基板実装タイプ
シャーシ取付タイプ
インレット一体タイプ
パワーエントリーモジュール

右に行くほど、ほかの部品とまとまったタイプになります

インレットやパワーエントリーモジュールについては、このシリーズの「IECインレット早わかり」「パワーエントリーモジュール入門」で詳しく説明しています。

やりがちな失敗3つ

ここで、はじめてノイズフィルターを使うときに、やりがちな失敗を紹介します。

×

入力と出力の配線を近づける

ノイズがフィルターを飛び越えて、出力側へ移ってしまいます。入力と出力の配線は離して。

×

アースをしっかりとらない

コモンモードノイズの逃げ道がなくなり、効き目が落ちます。ケースへ太く短くつなぐのが基本。

×

医療機器に一般用を使う

漏れ電流が規格の上限を超えてしまうおそれがあります。医療機器には医療用を。

まとめ:選ぶ前のチェックリスト

ノイズフィルターは、機器をノイズから守り、まわりの機器にも迷惑をかけないための大切な部品です。選ぶ前に、次の5つを確認しておきましょう。

  • 機器の電流と電圧は? 中は熱くなる? → 定格とディレーティング
  • 医療機器に使う? → 漏れ電流(医療用フィルター)
  • 止めたいノイズの周波数は? → 減衰特性のグラフ
  • ノイズはどれくらい強い? → 1段か2段か
  • どこに付ける? ほかの部品とまとめる? → 形・取り付け方

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